DTKライフ タイを知ろうぜ! Vol.1 タイにおける労働時間及び休暇の考え方 By dtkad Posted on 12 2月 2019 0 443 Views 皆さんこんにちは! DTK ADの木村です。 いつもはマーケターのボーフィスがブログ記事を担当しているのですが、今回1つの新企画の中で初めて筆を執ることになりました。 「タイを知ろうぜ」はタイで会社を経営されている方や事業責任者の方だけでなく、タイに関わっておられる全ての方にも読んで頂けるように日本とタイの違いなどについて様々な切り口から議論をすることによって、もっとタイを知っていこう!という企画です。 記念すべき第一回目のゲストとして弊社の顧問弁護士でもありバンコクのミスター頼れる漢こと GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.から代表の藤江さんをお招きしております。 GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd. 代表 藤江大輔さん 今回いわゆる処女作ではタイトルにあるように「タイにおける労働時間と休暇の考え方」について言及したいと思います。 タイを知る上でも最も基本的ではあるけれども意外と理解できていないところも多い法律を切り口に日本とタイの労働時間と休暇に対する考え方の相違点などを藤江さんと対談形式でお伝えしていきます。 それでは私自身ドキドキの記念すべき第一回の対談をお楽しみください! 日本の労働時間とタイの労働時間の違い 木村: 藤江さんタイで弁護士事務所をスタートしたのは今年でしたっけ? 藤江: 2016年9月にタイ法人を設立してもうすぐ1年が経ちます。 現在は日本人1名とタイ人有資格弁護士を含む4名のタイ人と5人体制でお客様をサポートさせて頂いております。 木村: もう1年経つんですね!対談の前にGVAのご説明を頂けますか? 藤江: はい! GVAは創業以来、IT企業を中心として最先端のビジネスモデルの構築・運用の支援や東南アジアにおけるビジネス展開の支援を行ってきました。 ITに比較的疎い法律業界の中で、ITビジネスに関する知見を有することは特徴の1つです。 また、ベンチャー企業を創業期から支援してきた経験から、企業のフェーズ毎に必要な法務体制を提案する支援体制も特徴の1つです。 木村: いや~心強いです。頼れるイケメンミスター藤江 藤江: あはは・・・ 木村: では早速本題いきましょうか。 今回のテーマが「タイにおける労働時間及び休暇の考え方」です。 まず「日本とタイの労働時間の違い」について話していければと思うんですが、ズバリ日本とタイでの違いってどんなところでしょうか? 藤江: タイの労働時間の考え方で押さえておかなければならない基本的な点は、3つです。 1日8時間以内の勤務にしなければならない 1週間に48時間以内の勤務にしなければならない 残業は1週間で36時間以内にしなければならない これだけだと日本と全く同じではないとしても、そう大きな差を感じないと思いますし、その感覚で基本的に問題ないと考えています。 木村: ですね、数字の部分が多少異なるくらいですかね。 藤江: 恐らく大きな違いを感じるのは、残業の部分ではないでしょうか。 残業についてどう違うんでしょうか? 藤江: 日本では、三六協定という労使協定を締結することで、残業が可能になります。 そして、その三六協定によって毎月の残業時間の上限が定められることになります。 タイでは、その三六協定に相当するような概念はありません。 木村: あ、そもそもないんですね。 藤江: はい、これに関して実務上少し面倒なのは、残業に関して、「残業が発生する『都度』従業員の同意を取る」 といルールになっていることです(保護法23条)。 木村: えー、めんどくさくね??って読んでる皆さん思われたと思います。(笑) 弊社を例にあげると実際そんなに残業がある会社じゃないので都度残業や休日出勤がある場合などは可否確認はしてますがこの点は日本とは大きく違ますよね。 藤江: そうですね。 日本の場合は、雇用契約書や就業規則で「会社が残業を命じることができる」と規定されているケースが多く、従業員の同意がなくとも残業を命じる場合があります。 しかし、タイではそれが原則としてできない。 従業員に残業してもらいたい場合は、あくまでその都度従業員の同意が必要になると思った方が良いです。 これは大きく違う点と言って良いと思います。 真剣に話す時、普段大きい目がもっと大きくなってちょっと怖いミスター藤江。 木村: ではこの同意の取り方についてなんですが、ここでの注意点とかありますか? 藤江: 異論はあるところですが、この同意は必ず書面で行わなければならないという考え方もあります。 つまり「残業同意書」を書式として会社で準備し、それを提出してもらって残業してもらうということになりますね。 基本的にはこの運用がベターだと私も思います。 木村: 例えば弊社では雇用契約書に、残業してもらう時は事前に指示しますよ~ってのと、 残業してもらう場合には本人と私もしくはマネージャー陣のサインをして経理に提出する、といった流れなんですが、この流れでもオッケーってことですよね? 藤江: はい、その都度同意が書面に残されているのでオッケーです。 木村: 良かった~。 なんかこのまま続けてもしやり方間違ってるものが出てきたらどうしようかとドキドキしてきました。 藤江: その場合弊社がすぐにサポートしますのでご安心を!! 木村: さすがバンコクの頼れる男!安心感がはんぱねーな。 全く話しずれちゃうんすけどミスター藤江はなぜタイに来ようと思ったんですか? 藤江: たまたま知り合いがタイで事業活動を行っていたというだけのことで、シンプルに「人との縁」がきっかけです。 私の場合、幸運なことに、学生時代に、タイで事業をやっている知人のところに遊びに行って、海外で働く魅力に少しだけ触れる機会がありました。 とてもワクワクしたことを今でもはっきりと覚えています。 それがきっかけとなって、漠然とタイで法律に困っている人を支援したいと思うようになりました。 しかし、正直なところ全然イメージが湧かなかったし、自信も全くありませんでした。 しかし、興味のある分野というのは自然と情報を集めてしまうもので、何だかんだと市販されているタイに関する本はほとんど読破してしまっていました。 そういうことが少しずつ自信に変わり、ある時「タイに行ってやれるだけやってみよう」と思う瞬間がありました。 その瞬間は、ふいに思い立ったという感じだったような気がします。 いい話をして少しだけドヤ顔をしながら最後にワイ※1をする藤江氏に少しだけイラっとした。 ※1 ワイとはタイの伝統的挨拶。先方への敬意を示すもので、合掌してお辞儀をする。 木村: なるほど~。決断力がはんぱねーな。 なんか理由を聞いてまた好きになりました。あなたのことが。 藤江: 失笑 木村: それでは本題に戻りましょう! 次は結構僕も曖昧なところがありながら流れで決めている、タイの休暇についてお話聞かせてください。 タイの休暇について 藤江: 個人的には日本と比較した場合ここが一番違うなと思っています。 休暇については特に「有給休暇」の捉え方がかなり違うと考えるべきでしょう。 まず、日本で「有給休暇」というと、年間で十数日程度の「年次有給休暇」と考えるのが普通ですね。 しかしタイでは、いわゆる日本の年次有給休暇とは別に、病気休暇として年間30日が有給休暇となり、その他の出産や兵役等で休暇を取る場合でも原則として有給です。 これに面食らう方は多いように思います。 木村: はい、日々体験しております。4年半やってるともう食らう面もなくなってきました。 これがあの有名なシックリーブ(Sick leave)というやつですね。 連休前後に特に多い欠勤理由としてこのシックリーブ!泣 何これ?と思った人もほんと多いと思うのですが海外で働いていると、こういった日本の価値観と違うな~ということは多々ありますよね。 藤江: ちなみに、タイの年次有給休暇は6日以上とされており、日本と違って勤続年数による増加はありません。 そのため年次有給休暇は6日としているところが多いと思います。 企業によっては、少し手厚く10日程度に設定している企業もあると思いますが、いずれにせよ日数を固定するケースが多いように思います。 木村: 有給については固定。日本では期間による増加ががありますもんね。 藤江: またタイでは、未消化の年次有給休暇の繰越しが認められるケースが一般的です。 法律上、未消化の年次有給休暇は、合意によって繰越可能であるとされていて、必ずしも義務ではないのですが、そういう企業が多いと思います。 木村: これ実は私知らなかったんですよね。。 繰越に関しては日本でどうなんでしょう?。 藤江: 日本では有給は2年を期限として利用できると考えられているケースが多いのではないかと思います。 ミスターの話を食い気味に聴いている風だが、パリッとした頭を見てワックスは何を使ってるか気になってしょうがなかった。結局聞けなかった。 従業員が退職する場合に残った有給休暇は? 木村: ではもし従業員が退職する場合、有給休暇が残っている場合はどのような処置が正解なんでしょうか? 藤江: 年次有給休暇については、買取りすることになると考えられているケースが多いですね。ただし、この点は少し誤解が多い部分です。 まず、法律は、「従業員が解雇された場合に」未消化の年次有給休暇を買い取るよう義務付けています(保護法67-1)。 つまり、自主退職の場合はこの規定は適用されないことになります。 タイでは解雇以上に自主退職が多いのでこの点の整理は重要です。 しかし、前年度から繰り越した未消化有給がある場合は別になります。 法律は、繰越された未消化有給については、常に買取義務を課している(保護法67-2)。 つまり、この部分は自主退職であっても買い取らなければなりません。 この区別は案外分かりにくいかも知れませんね。 木村: なるほど。 前年度からの繰越についてはいかなる場合でも買取をしないといけないってところがポイントっぽいですね。 ここって絶対法律をきちんと理解していないとわからない部分ですね~。 藤江: ちなみにですが、日本では有給休暇の買取り義務はありません。 時間外手当について知りたいのですが、実際時間外手当てってどうやって計算するんですか? 木村: 出ました。ここって結構日本人が勘違いしやすいところかなって思っています。 藤江: おっしゃる通りです。 この点も日本とタイとで大きく違う点ですね。 まずタイにおける時間外手当の割増率は50%です。 つまり、時間外手当については時間給に対して1.5倍の賃金を支払うことになります。 木村: この算出方法がアレですよね。 藤江: はい、アレなんです。 その時間給の算出方法ですが、基本給÷(30日×8時間)と考えて下さい。 とてもシンプルな算定式なのですが、日本だとこういうシンプルな考え方はしません。 日本の計算式をひと言で説明するのは難しいのですが、非常に大雑把に言えば、休日を除いた所定労働日数を算出して、その日数×所定労働時間を基準とします。 木村: 国が違うとはいえ、なんでこういう違いが生まれるんですかね? 藤江: この違いが生まれる根拠は、文化というよりもタイの法律にあります。 というのも、タイの法律では、祝日・休日についても、会社は給与を支払わなければならないとされてるんです(保護法56)。 つまり、タイの月給は、休日を含む30日(又は31日)分の対価ということ。 日本では、休日を除いた約21日の対価が月給です。両国の考え方の違いが大きく現れている部分です。 木村: 日本では働いた日数に対して支払う対価が給料、タイでは1ヶ月働いたことに対して支払う対価が給料。 この考え方の違いは大きいですよね。馴染むまで時間かかりました。だから休みについての考え方が全く違うんですね~。 藤江: そうですね。ここを踏まえると、シックリーブなどの扱いにもやや納得感が出るように思います。 つまり、タイの法律は、休みの日が無給であること自体を「例外的な位置付け」にしているように読めます。 木村: そういえばタイって祝日はどう決まってるんですか? 会社によって休みだったり休みじゃなかったり、銀行などの金融機関だけ休みだったりするのってあれ、なんなんだろ。 タイの祝日について 藤江: いい質問ですね~。 これって皆さんがどのように認識されてるか分からないんですが、 日本の祝日というのは、「祝日法」という法律で決まってるんです。 そして、ほとんどの企業は、雇用契約や就業規則で、「国人の祝日」を「休日」として定めているので、 祝日法で定められた国民の祝日=休日になるというわけです。なので、日本の祝日というのは極めて分かりやすい。 木村: あ、あれですよね?あの・・あの祝日法っすよね・・? 藤江: 普段は聞きなれない法律かと思いますので知らなくても無理はないですよ。 僕の無知をフォローしてくれる優しいミスター。赤い実がはじけそうになった。 木村: いや、あの・・ごぼ・・ 藤江:(食い気味で) これに対して、タイでは祝日法に相当する法律はありません。 したがって、祝日自体は慣習によって決まります。 なので、はっきりこの日が国民の祝日だというのは、法律上はどこにも明記されていないはずです。 木村: へぇ~・・祝日に対する法律がないんだ~。 けどそれってほんと祝日が曖昧になりますよね。 藤江: 例えば最近だと日本は2016年から山の日が新設されましたよね? 木村: ・・山?の・・日??あー、山の日ですね。 この時考えていたことは、無性にごぼうが食べたいということ。 藤江: こちらも改正祝日法により新設されました。 木村: 「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ことを趣旨とした祝日ですよね、はい。 藤江: さすがです! 木村: いえいえ~当然ですよね、日本国民として。 藤江: ググりましたよね? ググりましたよね?ミスターはズルは許さない、正義の塊それがミスター。 木村:てへぺろ 藤江:(無視して) そのようなタイの祝日ですが、労働関係の視点で言えば、 法律上は、企業が個別に年間13日以上を祝日として定めて、従業員に通知しなければならないとされています(保護法29条)。 つまり、祝日は企業が定めて良いことになっているんですね。 木村: 祝日になるの?どうするの?ってタイ在住の日本人同士での会話で結構多いじゃないですか? 毎回社員も目をキラキラさせながらどうしますか??って食い気味に聞いてきますし。 藤江: それはそういうタイの祝日の取扱いによるものなんです。 ちなみに、実務的によく忘れがちなのは、この通知義務です。毎年企業は、慣習上の祝日の中から、 13日以上を自ら選定して、それらの日を祝日にしますよと従業員に通知します。 「一般的にこの日は祝日だよね」という日が目安としてあるはずですので、 その日を参考にしながら決めるということになりますね。 木村: なるほど~。では極端な話、ソンクラーン※2に通常営業しまーす、その代わり別の日を祝日にしまーす、で年間13日あれば問題はないってことですよね? ※2タイの水掛祭り 知らない人はこちらの記事を読んでみてください。 http://dtkad.com/blog/songkran_inbound_thailand 藤江: かなり極端ですね(笑) 実際のところタイの慣習を無視することは難しいのですが、タイの伝統的な休日を労働日としても、結果として13日以上の休みを与えていれば労働法には違反しないと考えられます。 木村: 法律的にはそういうことですよね! いや~色々とすごい勉強になりましたわ。 なんか大枠でわかってはいるつもりだったんですが、今回で細かい理由や明確な対策などがしっかり理解できました。・・・気がします! 藤江: ありがとうございます。法律って面白いものだと思うんです。ちゃんと文化を反映しているというか。 ビジネス的にも、そういう部分を知ってリスク判断をするのか、知らずにリスク判断をするのかは、同じ結論であっても全然意味が違うと思っています。 まだまだ法律が精緻じゃないところも沢山ありますが、これからもこういうお話を続けさせて欲しいですね。 木村: 日本人にとっては何これ!?こんなのあり?!とか思うことも多いかと思いますがそれが海外で働くということ、の第一歩だと思います。 是非今後も色々な分野のことをこの場で話していきましょう! では今日は一旦ここまでとさせて頂きます。 藤江先生、本日はありがとうございました!さ、飲み行きましょ! ・ ・ ・ ・ さて第一回「タイにおける労働時間及び休暇の考え方」はいかがでしたでしょうか。 今回の内容には僕もタイで設立当初に決め事をしていく段階で結構びっくりしたり悩まされたりしましたことが多かったので今回の記事が誰かの役に立てれば嬉しいです。 重要なのは、「我々はタイで働かせてもらっている」という意識を持つこと。 住む許可をもらい、働く許可をもらい、ビジネスをさせてもらっている我々は日本の価値観でタイの法律や習慣を否定するのではなく、十二分に理解して対策を考えることが重要かと思います。 今までも社員にもクライアントにもタイという国を知りタイ人の国民性を知ることがこの国におけるマーケティングのをする上で一番重要だと発信し続けてきました。 更にタイの法律を知る、という新たなインプットによりこの国の背景を理解できたりそこから得た知識で今後のビジネス戦略にも繋がることが期待できそうです。 それにはまだまだも~~~っとタイを「知る」ことが重要になりますね。 ⬇︎タイでのお仕事の際にGVA法律事務所のミスター頼れる男に相談したい!という方はこちらまで http://gvalaw.jp/service/global/thailand 一緒くらいかと思ってけど自分の方が背が小さくて少し落ち込んだ。 ミスター頼れる漢、藤江先生とは今後もタイにおける様々なビジネスをタイの法律を切り口にお話しさせて頂こうと思っております。 そして記事化にしたものをまたここでどんどんお伝えしていきますのでみなさん乞うご期待を! それではまた次回!みんなで一緒にタイを知ろうぜ!